SMOKE (1995/ウェイン・ワン)
ポール・オースターという二流の小説家による原作、ウェイン・ワンという二流の映画作家。ということで期待はゼロだったが、ハートフルな良作だった。
ハーヴェイ・カイテルはいい役者だ。顔がいい。男の顔をしている。
この映画から学ぶことは多い。まず、女に大金を渡すときも、カバンなど携帯していては格好が悪い。何かあると勘ぐられる。
シャツと腹の間に大金を忍ばせる。つまり、女との待ち合わせにカバンなぞ持ち歩いている男はダメだということだ。
続編として『ブルー・イン・ザ・フェイス』があり、こちらにはルー・リードとジム・ジャームッシュが出演している。この2人も男の中の男だ。
76:14 (1994/Global Communication)
Aphex Twinの最初期のメンバーでもあるTom MiddletonとMark Pritchardのユニットによる通算2作目。
90年代屈指の名盤として有名なので、改めて紹介する必要がないかもしれない。
時代的にややニューエイジな音響をベースに、トランスに傾くこともなく、その「中庸」を泳いでいく。
快楽主義と思わせながら、極小さい音でAphex Twin的な毒も少々。
A Christmas Gift for You From Phil Spector (1963/V.A.)
Phil Spectorについては至るところで語られているので割愛するが、このとき弱冠23歳。
クリスマス・アルバムという範疇に留まらず、ポピュラー音楽史に燦然と輝く傑作であることは、Brian Wilsonの評を待つまでもないだろう。
改めて聴き直すと、今まで印象の薄かった「Christmas (Baby Please Come Home)」(唯一のオリジナル曲)こそが、Wall of Soundの真骨頂だと気がついた。
幾重にもオーバーダビングされたトラック、石飛礫のようなHal Blaineのフィルイン。偏執狂が夢見た夢のような音楽。
Different Trains (1988/Steve Reich)
クロード・ランズマン監督の『SHOAH』を観た者であれば、胸を搔きむしられるような音楽だ。
ユダヤ人であるライヒは、この映画の存在を手掛かりに本作を作ったに違いない。
ホロコーストを生き延びた人間の声を図書館から探し出し、それを加工した汽車の音、弦楽四重奏の分厚い音にコラージュする。
同時代人だったライヒが、仮にヨーロッパで生まれていれば、この「異なった汽車」に乗って強制収容所に送られていただろう。
そんな重々しい「Different Trains」から一転、「Electric Counterpoint」ではPat Methenyの軽やかなギターが聴ける。