SMOKE (1995/ウェイン・ワン)

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ポール・オースターという二流の小説家による原作、ウェイン・ワンという二流の映画作家。ということで期待はゼロだったが、ハートフルな良作だった。
ハーヴェイ・カイテルはいい役者だ。顔がいい。男の顔をしている。
この映画から学ぶことは多い。まず、女に大金を渡すときも、カバンなど携帯していては格好が悪い。何かあると勘ぐられる。
シャツと腹の間に大金を忍ばせる。つまり、女との待ち合わせにカバンなぞ持ち歩いている男はダメだということだ。
続編として『ブルー・イン・ザ・フェイス』があり、こちらにはルー・リードジム・ジャームッシュが出演している。この2人も男の中の男だ。

76:14 (1994/Global Communication)

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Aphex Twinの最初期のメンバーでもあるTom MiddletonとMark Pritchardのユニットによる通算2作目。
90年代屈指の名盤として有名なので、改めて紹介する必要がないかもしれない。
時代的にややニューエイジな音響をベースに、トランスに傾くこともなく、その「中庸」を泳いでいく。
快楽主義と思わせながら、極小さい音でAphex Twin的な毒も少々。

シザー・ハンズ (1990/ティム・バートン)

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伝統的なハリウッドのB級映画を90年代に蘇らせたような快作である。
冒頭とエンディングに挿入される現在?のウィノナ・ライダーの老けメイクだけでなく、本編のどこか間の抜けた人物造形もB級的だ。
おそらくは50年代のサンベルトを舞台とした、雪とは無縁の土地のクリスマス映画。いまではクリスマス映画の定番となっている。
『孤独な群集』(リースマン)で描写されたような、"他人指向型"の郊外を舞台とした不寛容さを指摘するのは、図式的すぎるだろう。
"他者"を排除する力学が、特にキムの家では決定的に欠けている。この温かさは、いまのアメリカにも残っているだろうか。

Sleepwalk (2008/Optimo)

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スコットランドグラスゴー出身のDJデュオ。Optimo名義としては3作目のMIX-CD。
マイナーな存在ながら、現在までに5つのMIX-CDを発表している。本作は最もアンビエント色が強いといえるだろう。
Raymond ScottからKaren Dalton、Arthur Russellまで縦横無尽ながら自然に空間に馴染ませている傑作。

素晴らしき哉、人生! (1946/フランク・キャプラ)

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"天使"というキーワードから『ベルリン・天使の詩』を思い出すが、本作はより老若男女が楽しめるハートフルな作品だ。
クリスマスを過ぎ、懐かしい気持ちで見直す。興行的には失敗だったが、現在のアメリカではクリスマス映画の定番となっているらしい。
初めて見たのは、おそらく上京してすぐの19歳の冬だ。家族ができたせいか、その感動が薄れることはない。
雪の降りしきる中、James Stewartが彷徨うショットがとにかく良い。

A Christmas Gift for You From Phil Spector (1963/V.A.)

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Phil Spectorについては至るところで語られているので割愛するが、このとき弱冠23歳。
クリスマス・アルバムという範疇に留まらず、ポピュラー音楽史に燦然と輝く傑作であることは、Brian Wilsonの評を待つまでもないだろう。
改めて聴き直すと、今まで印象の薄かった「Christmas (Baby Please Come Home)」(唯一のオリジナル曲)こそが、Wall of Soundの真骨頂だと気がついた。
幾重にもオーバーダビングされたトラック、石飛礫のようなHal Blaineのフィルイン。偏執狂が夢見た夢のような音楽。

Different Trains (1988/Steve Reich)

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クロード・ランズマン監督の『SHOAH』を観た者であれば、胸を搔きむしられるような音楽だ。
ユダヤ人であるライヒは、この映画の存在を手掛かりに本作を作ったに違いない。
ホロコーストを生き延びた人間の声を図書館から探し出し、それを加工した汽車の音、弦楽四重奏の分厚い音にコラージュする。
同時代人だったライヒが、仮にヨーロッパで生まれていれば、この「異なった汽車」に乗って強制収容所に送られていただろう。
そんな重々しい「Different Trains」から一転、「Electric Counterpoint」ではPat Methenyの軽やかなギターが聴ける。